福岡高等裁判所 昭和27年(ネ)577号 判決
申立人寿福守雄、被申立人(破産者)神谷諒作間の小倉区裁判所大正十四年(子)第二二号破産事件の債権表進行番号第二号貸金残六千四百二十五円九十五銭五厘、損害金二千六百七十七円四十八銭の各債権が存在しないことを確認する。
訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。
二、事 実
控訴代理人は、主文と同旨の判決を求めた。
被控訴人は、当審における本件口頭弁論期日に出頭しないが、出頭した相手方の陳述した原審口頭弁論の結果によれば、当事者双方の事実上の主張及び証拠の提出、認否は、すべて原判決当該摘示と同一であるから、これを引用する。
三、理 由
申立人寿福守雄(本件被控訴人)、被申立人(破産者)神谷諒作(本件控訴人)間の小倉区裁判所大正十四年(子)第二二号破産事件の債権調査期日(昭和五年七月十八日)において、債権表進行番号第二号貸金残六千四百二十五円九十五銭五厘、損害金二千六百七十七円四十八銭(以下本件債権という)が被控訴人の破産債権として確定したこと及び同事件の破産手続が昭和五年十二月二十七日終結したことは、いずれも当事者間に争がなく、そして右破産手続終結後十年を経過するまでの間、消滅時効中断の事由なかつたことは本件弁論の全趣旨から十分これを窺えるので、本件債権は控訴人主張のように右破産手続終結後十年を経過した昭和十五年十二月二十七日の満了と共に、時効により消滅したものといわなければならない。
ところが被控訴人は、本件債権の基本たる公正証書の執行力ある正本にもとずき、昭和十六年五月二十九日控訴人所有の有体動産に対し差押をなし、同年六月二十三日の配当協議期日において配当が実施せられ、控訴人は異議なく右債務を承認し、被控訴人は競売による売得金中から金二十三円の配当を受けたので、右差押及び債務の承認により時効は中断され、その時から新に時効の進行を始めたのであるが、それから十年の期間経過前に控訴人は本訴を提起し、被控訴人は今なお本件債権の存在を主張し請求棄却の判決を求めているのであるから、これにより時効は更に中断された旨抗弁する。然しながら、時効期間経過後においては、時効の中断ということはあり得ないのであるから、前段説示のように既に十年の時効期間を過ぎた本件債権について、その期間経過後に生じた時効の中断ということは、これを時効の利益の抛棄又は該抛棄を含む債務承認のことを主張しているものと解すべきところ、成立に争のない乙第一号証の一乃至四に弁論の全趣旨を綜合すれば、被控訴人が本件債権の基本となつた公正証書の執行力ある正本にもとずいて昭和十六年五月二十九日控訴人所有の有体動産に対し差押をなし、同年六月二十三日の配当協議期日において配当が実施せられ被控訴人は競売の売得金中から金二十三円七十四銭の配当を受けたが、右競売手続の終了に至るまで控訴人において何等異議等申出でなかつたことが認められるけれども、更に進んで控訴人が債務の承認等何等かの行為に出でたことは、これを認めるに足る証拠は存しない。思うに、右のように本件債権の為の強制執行手続において何等異議を述べずこれを甘受したのは、その手続によつて弁済せられた限度においては、控訴人は遂に時効の利益を援用することなくして終つたので、時効の利益を抛棄したと同様の結果になるとしても、これを以つて控訴人が本件債務を承認して任意にその一部弁済をなしたのと同視すべきではないから、本件債権の存在を暗黙に承認したものと見ることができないのは勿論、時効の利益を抛棄したものということもできないので、本件債権は未だ時効が完成しない旨の被控訴人の抗弁はその理由がない。
そうだとすれば、本件債権が前段認定の時期において、時効により消滅したことを原因として、これが不存在の確認を求める控訴人の請求(弁論の全趣旨に徴し前記配当金二十三円七十四銭が本件債権に対し弁済せられたこととなることは当事者間に争がないのであつて、この部分は弁済による債権の不存在を求める趣旨であると認める。)は正当として認容すべきである。
よつてこれを排斥した原判決は、その部分に限り取消すべきものとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第九十六条、第八十九条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 野田三夫 川井立夫 天野清治)